ごあいさつ
マイクロ法人など小さい会社の税務を得意としている税理士法人加美税理士事務所の税理士 川畑英之と申します。
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年商2,000万円超の事業者様へ:税務調査リスクとその備え
売上が一定規模を超えると、税務署からの税務調査を受けるリスクは避けて通れません。特に、マイクロ法人を設立して節税や社会保険料の最適化を図っている法人様にとっては、法人化による経費処理や役員報酬設計などが調査対象となることもあります。
本記事では、年商2,000万円超の法人・個人事業主様に向けて、税務調査の入りやすいケース、日頃から取り組むべき事前対策、調査当日の対応、調査後の流れ、そして税理士の立場から見た対応ポイントを具体的に解説いたします。
会計freeeやマネーフォワードなどクラウド会計を活用した帳簿整備や、スポットではなく継続的な顧問契約の必要性など、現代的な経理事情にも触れながらご説明します。
税務調査に備えることで、調査リスクを最小限に抑えるとともに、安心して本業に集中できる環境を整えましょう。
1. 税務調査を受けやすいケースと事前対策
税務調査が入りやすいケースとは?
まず、どういった事業者が税務調査の対象になりやすいのか確認しましょう。売上規模や利益率、そして申告内容の特徴によっては、税務署の目に留まりやすくなります。
- 売上規模が大きい場合:一般的に年商1億円以上で黒字を計上している会社や事業者は、いずれ税務調査が入る可能性が高いと考えられています。売上規模が大きく利益を出している場合、税務署は申告内容の正確性を確認するため調査に入る傾向があります。
- 利益率に不自然な点がある場合:売上に対して利益率が極端に高すぎる、あるいは経費計上が多すぎて利益が低すぎるなど不自然な数値は調査官の注意を引きます。極端に高い利益率は経費漏れの可能性、極端に低い利益率は私的経費の混入など過大経費計上の疑いが持たれるためです。
- 申告内容に怪しい特徴がある場合:例えば、毎年売上が消費税課税の基準である1000万円ギリギリで推移している(毎年900万円台で留まっている)場合、消費税を回避するために売上を過少申告しているのではないかと疑われることがあります。意図的な過少申告が発覚すれば重加算税の対象となり、最大7年分の修正申告と多額の追徴課税を科される可能性があるため、絶対に避けるべきです。
- 申告と実態に齟齬がある場合:ネット販売が中心のビジネスでは、プラットフォームの取引データと申告額の不一致も調査対象になります。たとえばAmazonや楽天などの売上記録と確定申告の売上額が合わない場合、申告漏れを疑われるでしょう。また、帳簿上の数字と銀行口座の入出金明細がかけ離れている場合も注意が必要です。
- 経費計上に不明瞭な点がある場合:事業と無関係なプライベート支出を経費に混在させているような場合も、税務署に目を付けられやすいです。とくに高額な接待交際費や家族旅行代を経費計上している、不自然に高額なガソリン代・通信費等が計上されているといったケースは要注意です。
以上のようなケースに該当すると、税務調査が入りやすくなります。年商2000万円超規模ともなると売上も大きく、経費も多岐にわたるため、「うっかりミス」のつもりでも金額が大きくなりがちです。税務署はそうした事業者の申告を精査することで適正な納税が行われているか確認しようとします。
税務調査に備えて事前にできる対策
上記のリスクを踏まえ、日頃から税務調査を想定した対策を講じておくことが大切です。以下のポイントを押さえておきましょう。
- 帳簿の整備:日々の取引を漏れなく記帳し、売上台帳や仕入帳を正確に作成しておきます。収入と支出の記録が曖昧だと調査官の疑念を招きます。青色申告を採用している場合は複式簿記での帳簿付けが必要ですが、その要件を満たす適切な帳簿を用意しましょう。最近では会計ソフトやクラウド会計を活用すると効率よく正確な帳簿管理が可能です。
- 領収書・請求書の保管管理:経費の裏付けとなる領収書や請求書は紛失せず整理保管しましょう。原則として領収書等の保存期間は青色申告の場合7年間(前々年所得300万円以下なら5年間)、白色申告でも5年間は必要です。仕入れや発送に関する納品書・送り状控えなども含め、税務調査の際すぐ提示できるようにファイルやデータで管理しておきます。領収書がどうしても手に入らない場合は、日付・金額・用途をメモした書類で代替することも一部認められます。
- 申告内容のチェック:確定申告書や決算書の内容を毎期見直しチェックしましょう。同業者と比べて異常な数値がないか、科目ごとの金額に極端な偏りがないか確認します。例えば、売上に対して利益が少なすぎないか(経費計上が適正か)、消費税の課税事業者該当なのに適切に申告しているか等を点検します。不明点があれば税理士に相談し、必要に応じて修正申告も検討します。
- 税理士との顧問契約:可能であれば税理士と顧問契約を結び、継続的なサポートを受けるのがおすすめです。税理士は日々の帳簿のチェックや決算書の作成支援を通じて、不適切な処理がないか事前に指摘してくれます。また、税務署とのやり取りについてもアドバイスが得られるため安心です。専門家に定期的に相談しているかどうかは、税務コンプライアンス上とても重要なポイントです。
- 現金取引の記録:最近ではクレジットカードや銀行振込が多いビジネスも増えてきましたが、対面取引や店舗仕入れで現金のやり取りが発生することもあるでしょう。現金取引は記録が曖昧になりやすいため、必ず収支をメモし領収書を受け取りましょう。現金出納帳をつけて収支を管理し、事業用現金とプライベートのお金を混同しないことも大切です。
これらの対策を日頃から講じておけば、税務調査のリスクを下げられるだけでなく、万一調査が入っても落ち着いて対応できます。特に顧問税理士の存在は心強く、税務署への説明や交渉も専門家のサポートを受けられるため安心です。
2. 税務調査の基本的な流れ:事前通知から当日対応までのポイント
ここでは、実際に税務調査の連絡を受けた後から当日の流れまで、知っておくべきポイントを解説します。税務調査はある日突然やって来ますが、事前に流れを把握しておけば慌てずに済みます。
税務署からの事前通知はどう行われるか?
通常、税務調査は事前に日程調整の連絡(事前通知)が入るケースが多いです。多くの場合、調査の2~3週間前に税務署の担当者から納税者あてに電話連絡があり、調査を行いたい旨と日時の打診があります。連絡は原則として納税者本人(個人事業主なら本人、法人なら代表者)に行われますが、納税者が同意の上で「税務代理権限証書」を提出している場合には、顧問税理士に直接連絡が入ることもあります。これは既に税理士に依頼している場合、税理士が窓口となって日程調整ややり取りを代行してくれるというものです。
事前通知の内容としては、「調査を行う旨」「調査の日時・期間」「調査に来る場所(自宅兼事務所や店舗、税理士事務所など)」「調査対象となる税目(所得税・消費税など)と年度(何年分を調べるか)」「当日用意しておいてほしい帳簿書類の概要」などが口頭で伝えられます。法律上、事前通知を何日前までに行わなければならない、という厳密な規定はありませんが、実務上は上記のように概ね数週間の余裕を持って連絡するケースがほとんどです。
例外的に事前通知なしで調査官が突然訪問してくるケースもあります。これは悪質な脱税の疑いが強い場合などに行われる「無予告調査」と呼ばれるものですが、一般の任意調査では極めて稀です。もし仮にアポなしで調査官が来た場合でも、納税者には即座に調査に応じる義務はありません。税務調査はあくまで任意調査であり、納税者の同意を得て実施される建前です。そのため、その場で対応できないと判断したら「顧問税理士に連絡したいので少しお待ちください」などと伝え、税理士の立ち会いを求めることも可能です。調査官は納税者の許可なく勝手に帳簿書類を閲覧する権限はありませんので落ち着いて対応しましょう(ただし裁判所の令状に基づく強制調査は別です)。
税務調査当日の流れと対応ポイント
事前通知で決まった日程になると、税務署の調査官(通常2名一組が多い)が指定の場所にやって来て調査が開始されます。多くのケースでは午前10時頃に調査開始となり、その日の夕方まで調査が行われます。調査の期間は内容の難易度やボリュームによりますが、実務では約6割の案件が1~2日間で終了するとも言われます。年商規模2000万超クラスの事業者であれば、丸1日から長くても2日程度の調査で済むことが多いでしょう。
調査当日はまず事業概要のヒアリングから始まります。調査官は事業者に対し、事業内容や経営の概要について質問します。業種によりますが、例えば「どういった商品を扱っているか」「主な仕入れ先・販売チャネル」「在庫管理の方法」「従業員の有無(家族従業員を含む)」などが聞かれるでしょう。これは調査官がビジネスの全体像を把握し、その後の帳簿確認の参考にするためです。事前に自社の事業説明ができるパンフレットや組織図、業務フロー図などがあれば用意しておくと説明がスムーズです。法人の場合は会社案内やWebサイトのコピーなどが役立つでしょう。
午前中のヒアリングが終わると、午後から具体的な帳簿や書類の調査に入ります。調査官が重点的にチェックするポイントは以下の通りです。
- 売上の計上漏れがないか – 売上台帳やネット取引の履歴などと申告額を突合し、漏れがないか確認されます。意図的な隠蔽か単なるミスかも含め問われます。特にネット販売ではプラットフォームのデータ(Amazonの管理画面の売上レポート等)を見せてと言われることもあります。
- 売上計上時期のずれ – 売上を意図的に翌期に繰り延べていないか、期末前後の取引日付を確認されます。請求書の日付と売上計上タイミングをチェックされるので、ごまかしがないよう注意が必要です。
- 仕入・在庫の整合性 – 商品売買を行っている事業者については在庫の計上漏れや不適切な原価計上がないか調べられます。具体的には、期末在庫に計上すべき商品を経費(仕入)に入れて原価を大きく見せていないか、仕入数と在庫数が帳簿上矛盾していないか等を確認されます。大量の商品を扱うビジネスにおいては在庫管理表や棚卸表の整備が重要です。
- 経費計上の内容 – 通信費・交通費・ガソリン代・梱包資材費・外注費など、ビジネスで発生する経費が適切に計上されているかチェックされます。とりわけ人件費(アルバイトや家族への給与)がある場合、その支払い実態や金額の妥当性が細かく見られます。名目だけで働いていない家族に給与を支払っていないか、給与計算にミスはないかなど入念に調べられます。また交際費(取引先との飲食等接待費)が計上されている場合、その使途が事業に関連しているか(私的な食事を入れていないか)も確認されます。
- 帳簿書類の管理状況 – 会計帳簿や証憑書類がきちんと整理・保管されているかもチェックされます。青色申告なら複式簿記の帳簿、決算書、総勘定元帳などが揃っているか、白色申告でも現金出納帳や経費帳など簡易帳簿が備わっているか確認されます。不足していると指摘の対象となります。
調査官は帳簿や証憑を確認しながら不明点があれば随時質問してきます。その際には担当の事業主本人や経理担当者(法人の場合)が回答します。例えば「この旅費交通費はどこに行った際のものですか?」「この商品の仕入先はどこですか?」「在庫は今どこに保管していますか?」等、具体的な質問が飛ぶイメージです。即時の返答が難しい場合は後日資料を提出する形でも大丈夫ですが、できるだけその場で明確に説明できるように準備しておきましょう。
法人化している場合のチェックポイント
法人の場合、上記に加えて以下の点が調査官の着目ポイントとなります。
- 役員報酬の適正性:社長や役員への報酬(金額や支給方法)が法人税法のルール通りか詳しく見られます。役員報酬は利益調整に利用されやすいため、税務調査で詳細にチェックされます。毎月定額で支給されているか、事前届け出なしに期中改定(臨時増額)していないか、非常勤役員に不相応な高額給与を払っていないか等が検証されます。社長個人の生活費を会社経費として落としていないか、会社名義のクレジットカード利用明細なども確認対象です。
- 交際費や福利厚生費:法人経費として計上される接待交際費については、その支出先(取引先名や同行者)、金額、頻度など細かく質問されます。とくに中小企業では経営者のプライベートな飲食費が交際費に混ざりがちです。所得(金額)に比して交際費が不相当に大きい場合など、「個人的な支出を経費計上していないか」厳しく確認されます。
- 貸付金・借入金の精査:会社の貸借対照表上、役員や関係者に対する貸付金がないか、不自然な資産計上がないかについても見られます。例えば「役員貸付金」として社長が会社からお金を引き出していると、それは実質的に社長への利益供与(賞与扱い)と指摘される可能性があります。また、棚卸資産や固定資産の購入時期・金額が妥当か(期末直前に過剰な経費計上をしていないか)もチェックされます。
以上のように、調査官は多角的に帳簿と実態を突き合わせて確認していきます。初日の調査終了時には、調査官からその日判明した事項や追加で必要な資料などについて簡単なフィードバックがあります。その際に「必要な証憑」と「期日」を指定されますので、指示に従い準備します。
調査が複数日に及ぶ場合は、指摘事項に対する資料をそろえて翌日以降の調査に備えます。全日程の調査が終わると、後日税務署から結果の通知や指摘事項の説明を受けることになります(詳細は後述)。
当日の対応での注意点としては何より誠実で協力的な態度を示すことです。調査官に対して横柄な態度を取ったり、質問にあいまいな返答をしたりすると心証が悪くなり、調査が長引く傾向があります。聞かれたことには正確に答え、要求された資料は可能な限り迅速に提示するよう心がけましょう。もし不明な点や資料が手元になく即答できない場合は、「後ほど確認して提出します」と伝えれば問題ありません。下手に推測で答えて誤った情報を伝える方がリスクがあります。
また、税理士を同席させることも有効な対応策です。税理士がその場にいると専門的な質疑応答を任せられますし、調査官との緩衝材にもなってくれます。顧問契約をしている税理士がいる場合は、可能な限り税務調査の立会いを依頼しましょう。
3. 税理士が教える税務調査の対応策:必要書類の準備と適切な受け答え
税務調査を乗り切るためには、事前準備と当日の的確な対応が重要です。ここでは税理士の視点から、調査までに用意すべき書類や証拠類、そして調査官からの質問への受け答えのコツを解説します。
税務調査前に準備しておくべき主な書類
事前通知を受けたら、当日までに関連書類を整理・準備しましょう。税務署から具体的な書類の指示がある場合もありますが、一般的に過去3年分程度は下記のような書類を一通り用意しておくと安心です(悪質な疑いがある場合は最大7年分求められることもあります)。
- 売上に関する書類:売上台帳、取引明細、請求書(発行分)、見積書、受注書、契約書、領収書(控え)など売上計上の裏付けとなるもの。ネット販売の場合は、各プラットフォームの売上レポートや入金明細を印刷したものも該当します。また、発送伝票の控えや運送会社の送り状も、出荷の事実を示す資料として提示できるようにしておきます。
- 仕入・経費に関する書類:仕入台帳、発注書、納品書、領収書(仕入先から受け取ったもの)、請求書(仕入先から受領したもの)など。要は経費を証明する書類一式です。業種によっては領収書の無い仕入れ(フリマアプリや現金仕入れ)もごく稀にありますが、その場合は先述のメモ書きなど何らかの形で記録を残しておきます。また、クレジットカード明細やネットバンキングの振込記録も支払いの証拠になりますので揃えておきましょう。在庫明細表や棚卸表も重要です。特に商品売買を行っている事業者の場合は、期末商品在庫の数量と金額を一覧にした棚卸表は必須と言えます。
- 通帳や現金出納の記録:事業用預金通帳のコピー(または当該口座の取引明細)、現金出納帳など資金の流れに関する資料も準備します。通帳は売上入金や経費支出の流れを把握する根拠となるため、過去数年分を調査官に見せられるようにしておきます。現金商売部分がある場合は日々の現金収支記録(出納帳)を提出できるようにします。
- 人件費関係の書類(該当する場合):従業員や家族への給与を支払っている場合、その労務管理の書類を用意します。具体的には労働者名簿、勤怠管理表(シフト表やタイムカード)、給与明細、源泉徴収簿、年末調整関係書類などです。家族従業員の場合は実態を示すため、どんな作業を手伝っているかメモしておくと説明しやすくなります。
- その他経費の証拠類:例えば車両費や地代家賃を経費計上しているなら、自動車の車検証(事業用と証明するため)や賃貸契約書(事務所や倉庫の賃料契約)も用意します。また、保険料を経費にしているなら保険証券、減価償却資産があれば固定資産台帳や購入時の請求書など、科目ごとに補足資料があると安心です。
なお、事前に調査官から特定の資料を準備しておくよう依頼される場合もあります。その際は漏れなく準備し、ファイリングしてすぐ取り出せる状態にしておきましょう。パソコンにデータで保存しているものは画面上で提示できるようPCを当日使用可能にし、必要に応じてプリントアウトして渡せるようにします。
調査官の質問への適切な受け答え
税務調査当日は、調査官から様々な質問を受けますが、その受け答え次第で調査の印象が大きく変わります。適切な対応方法を押さえておきましょう。
- 聞かれたことに正確に答える:基本中の基本ですが、調査官の質問には誠実かつ端的に答えます。【「はい」「いいえ」で答えられる質問には余計な説明を付けず回答し、必要な説明は簡潔に付け加える」】というイメージです。事実と異なる答えをしたり、推測で曖昧な返答をすることは絶対に避けます。もし質問の意図が分からなければ「どのような意味でしょうか?」と逆に確認しても構いません。調査官も敵ではなく、正しい税額を確認するのが目的ですので、冷静に事実を伝えることが一番の防御策になります。
- 必要書類は迅速に提示する:調査官から「〇〇の領収書を見せてください」「△△の帳簿を確認させてください」等の要請があった場合、すぐに取り出して見せられるようにします。準備段階でファイリングや仕分けをしておいた書類がここで役立ちます。提出を渋ったりモタモタ探したりすると「何か不正が隠れているのでは?」と疑念を持たれかねません。スピーディかつ堂々と提示しましょう。
- 知らないことは正直に:もし質問内容に対して自分では答えられない(例えば専門的な税務処理の話など)場合は、無理に答えず「担当の税理士に確認します」や「資料を後ほど提出します」と伝えましょう。いい加減な回答をして後で訂正する方が印象が悪くなります。調査官もその場で全て解決しなくても後日のフォローを認めてくれますので、分からないことは素直にそう伝えて問題ありません。調査は数日~数ヶ月かけて最終結論が出るものなので、その場で完璧にしようと焦らないことです。
- 税理士や専門家に任せる:税務調査に税理士が立ち会っている場合、専門的な質疑応答は極力税理士に任せましょう。例えば帳簿の付け方や申告書の計算根拠など技術的な質問は、税理士の方が適切に回答できます。事業主本人は事業実態に関すること(ビジネスの流れや取引の内容など)の説明に集中し、税務の解釈に関わることは税理士にバトンタッチするのが得策です。税理士は言うなれば「通訳兼弁護人」のような役割を果たしてくれますので、遠慮なくサポートを仰ぎましょう。
- 感情的にならない:調査官から厳しい指摘を受けたり疑いをかけられたりすると、つい感情的に反論したくなるかもしれません。しかし、怒ったり泣いたりしても状況は悪化するだけです。不服や言い分がある場合でも、冷静に資料や根拠を示しながら説明するよう努めます。調査官もこちらが真摯に対応していれば敵対的な態度は取りません。あくまでプロフェッショナル同士のやり取りと考え、ビジネスライクに対応しましょう。
税理士が行う高度な防衛策(事前チェックや修正申告の活用など)
さらに税理士の視点で、税務調査に備える高度な対策について触れておきます。
- 事前税務監査(模擬調査)の実施:顧問税理士がいる場合、調査が来そうだと判断したタイミングで自主的な税務チェックを依頼することがあります。いわば模擬税務調査のようなもので、税理士が過去の申告内容や帳簿類を第三者目線で点検し、不備やリスクを洗い出します。事前に問題点を発見できれば、実際の調査で指摘される前に対処することが可能です。税理士はプロの目線で「ここは説明が必要」「この経費は根拠資料が弱い」など指摘してくれるので、非常に有用な対策と言えます。
- 自主的な修正申告の活用:税理士のチェックなどで申告漏れやミスが判明した場合、税務署から指摘を受ける前に自主的に修正申告を行うという方法があります。税務調査の通知前に自ら誤りを正した場合、通常課される過少申告加算税(本来納めるべき税額を少なく申告していたことへのペナルティ)が課されないこともあります。つまり、早めに自ら名乗り出て訂正すれば、ペナルティ分だけ負担を軽減できる可能性があるのです。ただし修正申告をすると、不足税額に対して延滞税(利息)は日割りで計算されますので、見つかった誤りは一刻も早く訂正するのが得策です。
- 税務調査当日の立会いと交渉:税理士は調査当日の立会人として、調査官との質疑応答や交渉においてクライアント(事業者)をフォローします。調査官が計上ミスを指摘した際に、その理由を聞いて必要なら反論したり、円満に解決する着地点を探ったりします。また、その場で結論が出ない論点については、後日の対応(見解の照会や再確認)など税理士が橋渡しをしてくれることもあります。税理士に立ち会ってもらうことで心理的にも安心でき、調査官に対しても「専門家が付いているから下手なことはできない」と一定の牽制になるでしょう。
- 専門知識の投入:場合によっては税法の解釈問題など高度な論点が出てくることがあります。例えば「この収入は事業所得か雑所得か」「この経費は必要経費として認められる範囲か」などグレーな部分です。そうした際、税理士は過去の判例や通達を引き合いに出して主張を展開したり、税務署と交渉して有利な取扱いを勝ち取ってくれることもあります。専門家でなければできない芸当ですので、こうした高度な防衛策を講じられるのも税理士を付けるメリットです。
以上のように、税理士は事前の準備段階から当日の対応、事後処理に至るまで様々な局面で力になってくれます。一般の事業者にとって税務は本業ではないですから、税金のプロである税理士をうまく活用してリスクヘッジすることが賢明と言えるでしょう。
4. 税務調査後のフォロー:追徴課税への対応と再発防止策
税務調査が終了した後、指摘事項があれば修正申告や追徴課税の対応が待っています。また、調査で判明した問題点を踏まえて再発防止策を講じ、今後に活かすことが大切です。このセクションでは、調査後のフォローアップについて説明します。
追徴課税の計算方法と対応策
税務調査の結果、「申告漏れや誤りがあった」と判断された場合、まず不足している本税(本来納めるべき税金)を納める必要があります。その上で、状況に応じて追徴課税と呼ばれるペナルティ的な追加税金が課されます。
主な追徴課税には以下のようなものがあります。
- 延滞税:本来の納付期限までに納めるべき税金を納めなかった期間に対する延滞利息です。期限の翌日から2ヶ月間は年7.3%、それ以降は年14.6%(令和5年現在)という高利率で日割計算されます。納付が遅れれば遅れるほど延滞税が膨らむため、追徴税額の通知を受けたら速やかに支払うことが重要です。
- 過少申告加算税:申告した税額が本来より少なかった場合に課されるペナルティです。調査で指摘を受けて修正申告を行うと通常この加算税が課されます。税務調査の途中で自主的に修正申告をした場合は5%程度の軽減税率が適用されることもありますが、最終的に税務署の指摘に従って修正する場合は不足分の10%(もしくは場合により15%)が加算されます。例えば申告漏れで追加100万円の税金を払うケースなら、過少申告加算税は10万円(悪質な場合なら15万円)といった具合です。
- 無申告加算税:そもそも確定申告をしていなかった(無申告)場合に課される加算税です。期限後に自主申告した場合は5%、調査を受けて申告した場合は10%(隠蔽があればさらに重く)となります。一定以上の利益が出ていて無申告というケースは少ないと思いますが、万一申告漏れの年があればこの対象になります。
- 重加算税:意図的な隠蔽や仮装(例えば売上を除外するために二重帳簿を作った、虚偽の領収書をでっち上げた等)といった悪質な不正があった場合に科される非常に重いペナルティです。追徴税額の35%(無申告の場合40%)もの高率で課されます。重加算税が適用されるときは、ほぼ脱税事案として刑事告発も視野に入るレベルですが、通常の事業者であればここまでの悪質なケースはまれでしょう。
税務調査後には税務署から更正通知書ないし決定通知書という形で、本税と追徴税の金額明細が送られてきます。内容を確認し、指定された期限までに納付しましょう。資金繰りの都合ですぐに一括納付が困難な場合は、所轄の税務署に相談すれば分割納付や納税猶予が認められることもあります。一定の条件(1年以上前の税額であること、一括納付が困難な理由があること、申請書提出と担保提供など)を満たせば最長1年の猶予が得られる可能性があります。支払いに悩むときは放置せず早めに相談しましょう。
なお、調査結果にどうしても納得がいかない場合は不服申立て(異議申立て)や更正処分に対する審査請求・訴訟といった法的手段もあります。しかし、一般の事業者にとって訴訟まで争うのは時間・コスト面で現実的ではないケースが多いですし、明らかな税法解釈ミスでもない限り覆る可能性は低いのが実情です。まずは税理士とも相談の上、追徴税を受け入れて今後の改善に注力する方が建設的でしょう。
調査後の再発防止策:内部管理体制の構築
税務調査で何らかの指摘や修正事項があった場合、それを社内の教訓として活かすことが大切です。一度調査が入ったからもう安心、ではなく、調査で指摘されたポイントは今後の申告で繰り返さないよう内部管理体制を見直しましょう。
社内での振り返りと改善:調査結果で明らかになった問題点やミスについては、関係者で共有し原因を分析します。「なぜ売上漏れが起きたのか」「どうして経費計上ミスが発生したのか」等、指摘の根本原因を突き止め、業務プロセスの改善策を立案することが重要です。例えば、領収書の管理が甘かったのなら管理方法を見直す、在庫の把握が不十分だったのなら在庫管理システムを導入する、といった具体策を検討・実行します。調査結果を企業内で共有し、全社的な意識改革につなげることも必要です。特に従業員を抱えている場合は、経理担当だけでなく現場スタッフにも基本的な税務知識(例えば領収書の重要性など)を教育する良い機会になります。
内部統制の強化:中小規模の事業者であったとしても、売上規模が大きくなれば内部統制の発想も取り入れましょう。具体的には、金銭管理の複数人チェック(入出金を一人に任せきりにしない)、経費精算ルールの明文化、在庫棚卸の定期実施、会計ソフトへの入力内容を定期レビューする体制などです。調査で指摘された事項だけでなく、類似の誤りが生じうる他の事項も洗い出し、再発防止策を講じることが求められます。例えば売上漏れを指摘されたなら、今後は受注から入金までのプロセスを見直して二重チェック体制にする、といった具合です。
税務コンプライアンス意識の向上:経営者自身が税務に対する意識を高めることも再発防止につながります。社内においても「こういう処理は税務上NGなんだ」「この書類が無いと経費にならないんだ」といった知識を共有し、コンプライアンス重視の文化を育てましょう。最近ではインボイス制度(適格請求書保存方式)など新しい制度も導入されていますので、そうした最新の税制にもアンテナを張り、アップデートを怠らないことが大切です。
税理士との継続的な関与の重要性
税務調査後も、ぜひ税理士との関係を継続してください。調査が終わったからもう税理士は不要、と解約してしまうのは得策ではありません。むしろ調査を機に税理士のサポートの重要性が実感できたはずです。
税理士は調査で指摘された事項について一緒に検証し、今後の改善策を提案してくれます。例えば「在庫管理はこうした方がいい」「交際費の処理はこうルール化しましょう」といった具体的なアドバイスです。それを踏まえ、日々の経理処理に落とし込んでいけば、次回以降の調査リスクをぐっと減らすことができます。
また、税理士と顧問契約を継続していれば、定期的に帳簿類のチェックや決算前の検討を依頼できます。定期的な税務チェックを怠らないことで、小さなミスも早期に発見・修正でき、大きな問題に発展するのを防げます。場合によっては年に一度、ミニ税務監査のような形で税理士に社内を点検してもらうのも良いでしょう。
さらに、税理士は税制改正や最新の節税策についての情報源にもなります。消費税や所得税の制度変更が事業にどう影響するか、節税のために法人化すべきか否か、といった経営判断にもアドバイスを求められます。本業に専念するためにも、税務は専門家に任せるというスタンスで継続的に関与してもらうことが、長期的にはコスト以上の価値を生むでしょう。
最後に、万一また数年後に税務調査が来ることになっても(調査周期は概ね5年おき程度と言われます)、継続して税理士が関与している事業者であれば安心感が段違いです。前回の調査記録や改善内容も税理士が把握していますから、適切にフォローしてくれるはずです。税務調査は誰しも避けたいものですが、適切な帳簿管理と専門家のサポートがあれば怖がる必要はありません。継続的な税務コンプライアンス体制を整え、安心して事業拡大に取り組んでいきましょう。
まとめ
年商2000万円超規模の事業者にとって、税務調査は決して他人事ではありません。売上規模が拡大すれば調査リスクも高まります。しかし、本記事で解説したように事前の備えと適切な対応策を知っておけば、過度に恐れる必要はありません。日々の帳簿管理をしっかり行い、領収書類を整理し、税理士と連携しながら正しい申告を心がけていれば、万一調査が来ても慌てず対応できます。税務調査は事業の健全性を見直すチャンスと捉え、適正な納税とビジネスの発展を両立させていきましょう。
事前対策から当日の振る舞い、事後のフォローまで一貫して注意すべきポイントを押さえ、ぜひ「備えあれば憂いなし」の状態で日々の事業に邁進してください。何か不安な点があれば、いつでも顧問税理士や専門家に相談することをおすすめします。適切なサポートを受けながら、健全なビジネスを継続していきましょう。
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